ジョセフスティグリッツ 世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す
この伝統的な考えかたでは、経済とはもっぱら効率性を追求するものであり、公正さの問題(美しさと同じく、公正さも見る人の主観に左右されやすい)は政治に託すべき事柄であるというのだ。しかし、今日、市場原理主義にたいする知識層の擁護はすっかり影をひそめた。“情報の経済学”にかんする研究で、わたしは、“見えざる手”が見えない理由を明らかにしている。情報が不完全な場合、特に情報の不均衡――特定情報をある人々が知っているのに、ほかの人々は知らないという状況(しかもこれが常態化している)――がある場合、“見えざる手”などというものは初めから存在していない。だから、政府が適切な規制と介入を行わなければ、市場における経済効率の向上は望めないのだ。
前世紀の経済学における最も重要な進歩のひとつは、政府が支出をふやして税金と金利を下げれば、国々を景気後退から回復させるのに役立つというジョン・メイナード・ケインズの見識だった。IMFはこのケインズ政策を拒否し、代わりに政府の赤字に注目するケインズ以前の政策を採用した。それはケインズの推奨とはまったく逆に、景気後退の中での増税と支出削減を必要とする。それらが試されたほとんどすべてのケースで、IMFの政策は景気減速を悪化させた。結局のところ、エコノミストたちは教科書を書きかえる必要がなかったわけだ。しかし、これは経済の専門家にとっては朗報だが、途上国に住む数百万人の人々にとっては大打撃だった。
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